特攻隊員の遺書 伊藤甲子美伍長【妻へ】

至らない身、お詫びを致します。

 季代子 かう呼びかけるのも最後になりました。短かつたけど優しい妻でした。有り難く御礼申し上げます。まこと奇しき縁でしたけど、初めて幸福が訪れた様な気がして嬉しく思つていました。折角永遠の誓ひを致しながら最後になりますのは、何かしら心残りですけど、陛下の御盾として果てる事は、私にとりましても光栄と存じます。
 短い生活で、もう未亡人と呼ばれる身を偲ぶとき、申し訳なく死に切れない苦しみが致しますが、すでに覚悟しての事、運命として諦めて頂きたいと思ひます。若い身空で未亡人として果てる事は、決して幸福ではありませんから佳き同伴者を求めて下さい。
 私は唯、幸福な生活をして頂きますれば、どんな方法を選ばれませうとも決して悲しみません。
 さやうなら季代子、何一つの取り柄のない夫を持つて、さぞ肩身の狭き思ひで有りませう。至らない身、お詫びを致します。
 何日の日か幸福な妻にさして上げたく思ひ乍ら、その機会もなく心残りでなりません。
 どうぞ御健やかに御暮らし下さいます様、お祈り致しています。さやうなら。

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