芥川龍之介さんの残した遺書 (妻宛て)【小説家】1892年3月1日~1927年7月24日
芥川文子あて
追記。この遺書は僕の死と共に文子より三氏に示すべし。尚又右の条件の実行せられたる後は火中することを忘るべからず。再追記 僕は万一新潮社より抗議の出づることを惧るる為に別紙に4を認めて同封せんとす。
4.僕の作品の出版権は(若し出版するものありとせん乎)岩波茂雄氏に譲与すべし。(僕の新潮社に対する契約は破棄す。)僕は夏目先生を愛するが故に先生と出版書肆を同じうせんことを希望す。但し装幀は小穴隆一氏を煩はすことを条件とすべし。(若し岩波氏の承諾を得ざる時は既に本となれるものの外は如何なる書肆よりも出すべからず。)勿論出版する期限等は全部岩波氏に一任すべし。この問題も谷口氏の意力に待つこと多かるべし。
- 生かす工夫絶対に無用。
- 絶命後小穴君に知らすべし。絶命前には小穴君を苦しめ并せて世間を騒がす惧れあり。
- 絶命すまで来客には「暑さあたり」と披露すべし。
- 下島先生と御相談の上、自殺とするも病殺とするも可。若し自殺と定まりし時は遺書(菊池宛)を菊池に与ふべし。然らざれば焼き棄てよ。他の遺書(文子宛)は如何に関らず披見し、出来るだけ遺志に従ふやうにせよ。
- 遺物には小穴君に蓬平の蘭を贈るべし。又義敏に松花硯(小硯)を贈るべし。
- この遺書は直ちに焼棄せよ。
- 他に貸せしもの、――鶴田君にアラビア夜話十二巻あり。
- 他より借りしもの、――東洋文庫より Formosa(台湾)一冊。勝峯晋風氏より「潮音」数冊。下島先生より印数顆、室生君より印二顆。(印は所持者に見て貰ふべし。)
- 沖本君に印譜を作りて貰ふべし。わが追善などに句集を加へて配るもよし。
- 石塔の字は必ず小穴君を煩はすべし。
- あらゆる人々の赦さんことを請ひ、あらゆる人々を赦さんとするわが心中を忘るる勿れ。
(遺書)
日本の小説家。本名同じ、号は澄江堂主人、俳号は我鬼。 その作品の多くは短編である。また、「芋粥」「藪の中」「地獄変」など、『今昔物語集』『宇治拾遺物語』といった古典から題材をとったものが多い。「蜘蛛の糸」「杜子春」といった児童向けの作品も書いている。
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