吉川英治さんの残した言葉【小説家】1892年8月11日~1962年9月7日

「自分といえる自分などが、どこにあろう。ないはずのものを、あなたは、つかもうとしておいでられる。」


「どの青年もおしなべて情熱との戦いを繰り返しながら成長して行くのに、君は不幸だ。早くから美しいものを見すぎ、美味しいものを食べすぎているということは、こんな不幸はない。喜びを喜びとして感じる感受性が薄れていくということは、青年として気の毒なことだ。」


「転機は、運命と自己との飽和された合作でなければならない。転機はいつも、より生きんとする、若い希望の前にのみある。」


「ひとの生命を愛せない者に、自分の生命を愛せるわけはない。」


「あたたかい心で人のなかに住め。人のあたたかさは、自分の心があたたかでいなければ分かる筈もない。」


「酒を飲むと、修業の妨げになる。酒を飲むと、常の修養が乱れる。酒を飲むと、意思が弱くなる。酒を飲むと、立身がおぼつかない。…などと考えてござるなら、お前さんは大したものになれない。」


「無智はいつでも、有智よりも優越する。」


「いくら年をとり、知識を積んでも、人間には、人間本来の迷いの火ダネが、白骨になるまでは、なくならないものらしい。」


「職業に貴賎はない。どんな職業に従事していてもその職業になり切っている人は美しい。」


「たとえ、いかなる逆境、悲運にあおうとも、希望だけは失ってはならぬ。『朝の来ない夜はない』のだから。」


「真に生命を愛する者こそ、真の勇者である。」


「笑う世間の方がおかしい。」


「今日、民衆の中に何が一番欠けているか。自分を信じ、人を信じ、自分の仕事を信じ、自分の今日の生活を信じていくというような信念が非常に弱いと思う。」


「無心さ、純粋さ、素直さなどは人の心を打つ。その力は、こざかしい知恵をはるかに凌駕する。」


「あれになろう、これになろうと焦るより、富士のように、黙って、自分を動かないものに作り上げろ。世間に媚びずに世間から仰がれるようになれば、自然と自分の値うちは世の人がきめてくれる。」


「生きていること、それはすでに、世間の恩であった。」


「行き詰まりは展開の一歩である。」


「登山の目標は山頂と決まっている。しかし、人生の面白さはその山頂にはなく、かえって逆境の、山の中腹にある。」


「人間とは一日中に何百遍も菩薩となり悪魔となり、たえまなく変化している。」


「人と人との応接は、要するに鏡のようなものである。驕慢は驕慢を映し、謙遜は謙遜を映す。人の無礼に怒るのは、自分の反映へ怒っているようなものといえよう。」


「勝つは負ける日の初め、負けるはやがて勝つ日の初め。」


「近頃の人は、怒らぬことをもって知識人であるとしたり、人格の奥行きと見せかけたりしているが、そんな老成ぶった振る舞いを若い奴らが真似するに至っては言語道断じゃ。若い者は、怒らにゃいかん。もっと怒れ、もっと怒れ。」


「禍はいつも幸福の仮面をかぶって待っている。」


「戒めなければならないのは味方同士の猜疑である。味方の中に知らず知らず敵を作ってしまう心なき業である。」


「晴れた日は晴れを愛し、雨の日は雨を愛す。楽しみあるところに楽しみ、楽しみなきところに楽しむ。」


「楽しまずして何の人生ぞや。」


「いいじゃないか、5年道草をくったら、5年遅く生まれて来たと思うのだ。」


「およそ『自分ほど苦労した者はありません』などと自ら云える人の苦労と称するものなどは、十中の十までが、ほんとの苦労であったためしはない。」




日本の小説家。本名、英次。神奈川県生まれ。 様々な職についたのち作家活動に入り、『鳴門秘帖』などで人気作家となる。1935年より連載が始まった『宮本武蔵』は広範囲な読者を獲得し、大衆小説の代表的な作品となった。戦後は『新・平家物語』、『私本太平記』などの大作を執筆。

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